コラム > 2019年10月

「見え始めた『2020年 中国のEV輸出と覇権への道筋 』」

(2019年10月29日)

2020年を契機に、中国の自動車輸出産業は大きな飛躍が見込まれている。

現在、中国で製造された車は、イラン、メキシコ、タイ、インド、ロシア、ブラジルといった国々に年間100万台ほど輸出されている。別の言い方をすると、輸出先は自国に自動車産業が無い国に限られている。例外として、トランプ大統領の米国にも上海GMが15万台程輸出している。

自動車産業と輸出入の関係は、各国が自国の産業を守るために産業障壁を構える構図が一般的だ。ある国からの輸入量が多いと、当然その国へ輸出することは易しくなる。中国にとって欧州は最大の自動車輸入相手国であり、そして中国は欧州各国の政府とも関係が深い背景もある。

こうした中で、中国自動車メーカーの吉利は、傘下のボルボと合弁で「Lynk & Co」というブランドを立ち上げ、中国製自動車の欧州・米国向けを計画している。彼らは欧州と中国の両工場で製造し、2020年に英国市場へ輸出を開始する。これによって業界では、「吉利は中国製自動車を欧州に輸出し、成功させた最初のブランドになる」と考えられている。

一方、欧州メーカーも黙ってはいない。BMWも中国工場でSUVのEVを製造し、2020年には欧州へ輸出するビジネスモデルの展開を進めている。米国への輸出は当分難しそうだが、欧州では問題ない。

参考までに日本への輸出はどうかと言うと、これは極めて難しい。現在、中国は技術基準適合証明(COCペーパー)の多国間協定に参加していないため、企業レベルでは不可能に近い。 仮に、一般個人が中国車を輸入した場合も、高いコストと多くの労力を要してしまい、実際に行うと小型車でも欧州の高級車のような価格になってしまう。そのせいもあって日本では中国車の動きが少し見えにくくなっている。

中国製の自動車が安いのは容易に理解できる。一方で、世界中の人々に中国製自動車が欲しいと思わせるには課題が残る。それは品質とブランドの問題である。

■ 2020年を契機に これらの課題をブレイクスルーさせる3つの要素が整い始める。

(1) 中国政府による新エネルギー車の発展を支援する国家戦略の効果が出始める。
(2) 2020年から始まる欧州の環境規制によるEV市場の本格化。
(3) Tesla 社が建設する巨大EV工場(Gigafactory 3)。

(1)は中国政府が推進する電動化戦略である。強力にEV普及を支援し、既にEV普及では世界一となった同国だが、今後もその立ち位置が変わることはないだろう。結果、世界の自動車メーカーが中国でのEV開発・製造に本気で取り組み始めている。メルセデス、GMに始まり、トヨタ、日産もしかりである。さらに、世界最大の電池メーカーであるCATLをはじめ、中国電池メーカーが世界市場を飲み込む程の規模で電池製造の拠点整備を着々と進めるなど、既に幾つもの布石が打たれている。いずれ品質が向上するのと同時に低コスト化が達成されるのも必然であろう。

(2)は欧州の環境規制である。2020年から自動車メーカー各社は、一定規模のEV販売が必要とされる。例えば、フィアット社は数十億ユーロの罰金を課されることに迫られている。 さらに、各国とも将来的にはエンジン車を廃止する方針も打ち出している。

(3)は中国製品のブランド構築である。米国・欧州市場ではTesla社のEVが人気化している。市場では今後、街を走る台数が増えるにつれ、さらに人気が拡大していくと考えられている。同社の構想では、中国に建設するGigafactoryは1つではない。色々な背景があるが、中国政府が外資100%の自動車会社設立を許し、税制や補助金、土地優遇、資金協力、さらに国内市場の解放といった優遇策を行った背景には、いずれ中国製Tesla社を海外展開させることで、同社のブランドを活用し中国車に対する認識を変えさせることも含まれているだろう。そして結果として、中国製自動車に対するパラダイムシフトをもたらすだろう。少なくとも中国車の購入に対する障害を減らすことに大きく寄与することは間違いないだろう。

中国がEVを核にして、世界中に自動車を輸出する姿は、現在のスマホや家電製品と全く同じ構造である。別の表現をすれば、自動車という製品がスマホや電気製品の側に寄って来てさえもする。本格的に輸出量が増加するのはいつになるか。正確に判断するには、さらなる調査を必要とするが、残念ながら将来の自動車産業の青写真は既に描かれてしまったようだ。

木村勲(株式会社テクノアソシエーツ プリンシパル)

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