コラム > 2019年8月

「『いちばんたいせつなことは目に見えない』のか」

(2019年8月27日)

8月20日の日経新聞に、小説「星の王子さま」の作者であるサン=テグジュペリの、自筆の挿画が発見されたという記事を見付け、個人的にとても興奮した。サン=テグジュペリはフランスの郵便物運搬飛行機の飛行士であり、同時に「夜間飛行」「南方郵便機」「人間の土地」などの小説家としても著名だ。その中でも、子供向けの体裁で書かれた「星の王子さま」は、様々な示唆に富む名作であり、ご存じの方も多いだろう。筆者も、この本が大好きである。

多くの名言に溢れたこの本の中でも、おそらく最も有名なせりふはこれだ。

「いちばん大切なことは目に見えない」
It is only with the heart that one can see rightly,
what is essential is invisible to the eye

もう少し前後の文章を読まないと誤解されがちだが、少なくともビジネスの話ではない。人間とか愛情とか、ビジネスの対極(とは言えないところもあるが)の世界の話である。

しかし、普段「見える化」の重要性や価値を話したり経験したりすることがある筆者にとっては、少し背中がムズムズした。なぜなら、「いちばん大切なことは目に見えない」の対偶は「目に見えるものは、一番たいせつなことではない」だから。あのさー、という無数の突っ込みが入りそうだがご容赦いただきたい。大好きな「星の王子さま」の名言をきっかけに、「見える化」の重要性とその限界を少し考えてみようという強引なシナリオなのは、自覚しております。

<「見える化」の利点はノウハウの視覚化と、目利きの武器>

見える化自体について説明すると長くなるので、概要はご存じであることを前提にしてみる。だから、省力化とか、何かの継続のためのインセンティブ効果とか、誰がやっても同じことが可能に――なんてことは書かない。

見える化の最高レベルのメリットは、大別すると二つあると思う。一つは難しい技術や(知られたくない)ノウハウの承継。もう一つは、いわゆる目利きと言われている人の能力をより早期に引き出すツールとしてだ。

前者は説明するまでもないだろう。このポイントは、業務フローのような当たり前の作業をマニュアルとして図式化したものではなく、「こういうことだったのか!」「こうすれば、うまくいったのか!!」などと、驚きをもって迎えられるようなものだ。なぜなら、通常それを普通に実行している人たちにとっては、非常に説明しにくいか、説明したくない類のものである。長年、記者や調査コンサルタントをやっていても、このレベルの「見える化」に接することはまずない。

もう一つの「目利きのツール」はさらに分かりにくいかもしれない。目利きとは一般に、「(日本刀などの)真贋が分かる人」のことだが、最近のせどりビジネスでは、「値上がりする製品がすぐに分かる能力を持つ人」のこともこう呼ぶらしい。しかしここでは、「応用力と、そのベースとなる想像力が豊富な人物あるいはその能力」として使っている。彼らの能力とは単純化すると、「この技術(商品、ノウハウ等)は、こっち(全くの別分野や別の市場、用途違いの商品等)に使えるのではないか」と考えられることである。上手に「見える化」されたフローは、彼らの応用力をいたく刺激する。「お、これ、〇〇に使えるじゃないの」。つまり、能力を引き出す刺激を与えるツールである。

ここまで書いて見て、やっぱり「“いちばん大切なこと”は目に見えない」のではないかと思えてきた。これは見える化の否定はなく、その上にあるであろう高次の話である。英語ではセレンディピティ(serendipity)などと言うらしい。もっとも、どんな素晴らしいセレンデピティであっても、それをもとにヒット製品が生まれることは珍しい。邪魔をするのは、「それ、ただの思い付きだろ?」「数字で示せ、数字で!」などと嫉妬交じりに罵倒する周囲の人間である。

どうでもいい彼らの姿はよく見えるので、「目に見える彼らは、どうでもいい」(対偶)。
あら、やはりサン=テグジュペリは正しかったわけだ。

宮嵜清志(株式会社テクノアソシエーツ 取締役 副社長)

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