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「米中ハイテク覇権争い〜地経学の時代」

(2019年6月27日)

「米中貿易戦争」、「米中対立(あるいは米中衝突)」、「米中新冷戦の懸念(あるいは新冷戦に突入した)」といった表現が紙面を賑わせている。顧客との会話で話題に上ることも多い。むやみに過激な表現を使いたくないが、対立が貿易問題に止まっていないことは確かだと思う。米国は対中輸入製品の関税引き上げや、ファーウェイに対する米国製ハイテク部品等の事実上の禁輸といった貿易措置に止まらず、様々な厳しい措置を取っている。以下に挙げてみる。

投資:
対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化により、安全保障上の支障が出かねない重要技術、産業基盤等への外国企業の対米投資について審査を厳格化。

技術の保護:
中国系技術者を産業スパイ容疑で逮捕。ファーウェイから米国有力大学(スタンフォード大等)への寄附受入停止。中国に進出する外国企業に対する技術移転強要をWTOへ提訴。

人の往来:
ハイテク分野を学ぶ中国人留学生のビザ期限を5年から1年へ短縮(審査期間が長期化しているとの報道もあり)。

この他にも米国は中国との二国間交渉において、国有企業等への補助金削減、人民元相場の安定化(元安に誘導して輸出競争力を高めたりさせない)、外国企業の対中投資に対する規制緩和等を要求している。

こうして並べてみると、米国企業の産業競争力、特にハイテク分野における技術的優位を維持しつつ、中国企業の産業競争力を削ぐ措置が多いことが分かる。ハイテク分野の先端技術は次世代産業における競争力の源泉であり、また軍事技術にも転用されるので軍事力の優位性にも影響してくる。中国が優位に立った場合の個人情報や軍事情報の漏えいリスクも懸念される。ファーウェイが狙い撃ちされているのは、同社が通信基地局の世界シェアトップとして通信インフラに食い込んでおり、スマートフォンの世界シェアでも第2位というハイテク分野における世界でも有数の、そして中国を代表する企業だからである(そういえば創業者令嬢である副会長兼CFOが、米国の要請によりカナダで逮捕されたこともあった)。

米国のやり方は乱暴だと思うが、経済的手段を用いて相手国の政策を変更させる、あるいは自国に有利な国際環境を形成すること自体はよく行われている。経済外交であり、「地政学」ならぬ「地経学」である。国力の最終的な裏付けは軍事力というが、実際に軍事力が使える国や局面は限られ、多くは経済的手段が用いられる。

米国との関係では守勢にまわっている中国だが、韓国に対しては、在韓米軍への高高度ミサイル防衛システム(THAAD)配備への対抗措置として、中国人観光客の韓国への渡航抑制、中国国内で営業するロッテグループ企業の営業停止等で圧力をかけた。一方で中国は一帯一路構想を打ち出し、同構想を支援するためにアジアインフラ投資銀行(AIIB)を提唱、発足させて他国へ金融支援をしており、硬軟をうまく使い分けていると言える。

日本はどうか。かつては発展途上国向け政府開発援助(ODA)、近年は環太平洋経済連携協定(TPP)を通じた仲間づくりと、概してソフトなやり方である(最近は韓国の徴用工問題への対抗措置を準備しているようではある)。日本も強硬手段を使え、と言っているのではない。しかし、今までの感覚で「相手はそんな乱暴なことはしてこないだろう」と油断していると、後々慌てることになる。「他国が経済的手段を使い、日本企業がその影響を受ける可能性がある」という心構えをしておく必要があるし、世界第1位・第2位の経済規模の米中がやりあい、「オレに味方しろ」と言って来たら、影響は避けられない。

話を戻す。米中ハイテク覇権争いはどうなるであろうか。例えば、かつて日本の半導体産業が韓国・台湾に取って代わられたとき、韓国・台湾企業は日本の技術者をリクルートしてノウハウを吸収した。米国が留学生だけ抑制しても技術流出は止められず、中国のハイテク企業はキャッチアップしてくるのではないか。米国がその穴に気付いていない筈は無く、更なる打ち手を考えているのではないか。

ハイテク覇権争いはまだまだ続く。

水野豊(株式会社テクノアソシエーツ ヴァイスプレジデント)

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