コラム > 2017年3月

「その出資、大丈夫? 先端系ベンチャー企業取り込み時の留意点」

(2017年3月31日)

大企業からベンチャー企業への出資・買収が膨らんでいる。

2017年3月24日付の日本経済新聞によると「M&A(合併・買収)助言会社のレフコ調べでは、2016年の出資などを含めたM&Aは2012年に比べて件数で約6倍、金額で約3倍に増えた」という。

背景にあるのは自前主義からの脱却。外部(ベンチャー)の技術を自社に取り込み、スピーディに斬新な新製品を生み出す手法である「オープン・イノベーション」の高まりともいえる。

このような、技術が目的の買収・出資となると、対象となるベンチャーはIoTやAI(人工知能)、ビッグデータ、ロボット等のいわゆる先端系技術ベンチャー企業が中心となるだろう。

このような状況下では、買収・出資市場はまさに売り手優勢。

ある老舗ベンチャーキャピタル幹部は「ほんの少し前なら、ベンチャー対象のインキュベートファンドは1ファンド3億円程度だったが、今は30億円規模に上昇している。出資の結果が見え始める2017年あたりから、少し縮小に向かうかもしれないが」と困惑気味。

当のベンチャー企業も「自社の金額価値(バリュエーション)をかなり途方もない額に引き上げている」(外資系会計事務所)ようだ。

水を差す訳ではないが、このような技術系ベンチャーに出資する企業は、相手のことをどこまで調べているのだろうか。

技術系ベンチャーのコアの一つは、言うまでもなく自身が有する「知財(特許、ノウハウ等)」にあるが、これは金額換算が極めて難しい。

極端に言えば、買収価格を決めるのは、ベンチャー企業が描いた夢のような事業計画(将来のキャッシュフロー)を信じるかどうかだけ。これは博打に近い。

知財を「管理」出来ていないベンチャーはリスクの塊

人様がリスク覚悟で行うアクションに口をはさむ立場ではないが、ベンチャー企業への出資を検討している企業に、これだけはお伝えしたい。

「そのベンチャーが自社の知財をどう『管理』しているのか、徹底的に調べてみましょう」

ここでいう管理とは、どんどん特許出願して権利化している――ということ「だけ」ではない。

もちろん権利化は最も有効な管理手法だが、技術がすぐに陳腐化してしまう先端系においては絶対ではない。むしろノウハウとして秘匿化し、データを集めまくりながら規模の拡大を狙う方が、成長を第一に考えるベンチャーには有効な場合もある。

重要なのは「特許による権利化やノウハウの分散秘匿、社内情報への厳重なアクセスコントロール、退職者と交わすべき情報秘匿契約――といった知財に対する管理をどこまでやっているか」である。

なぜなら、技術系ベンチャーのコアである知財すらしっかり管理できない企業は、企業としてのコンプライアンス(法連遵守)意識が極めてお粗末な場合が多いからだ。

つまり、このような企業は「顧客情報漏えいを起こしやすく、経理処理も不完全・不十分なことがあり、逆に他社の権利は頻繁に侵す」かもしれない。

「知財管理の出来」は、「企業としての出来」に直結するように思う。実際に2016年、このような事情で上場できなかった著名ベンチャー企業があったことは記憶に新しい。

出資先の不始末は、出資元の不始末でもある。手品のように見える「技術」だけに目を奪われると、痛い目にあいかねない。

といって相手企業を管理書類づくりに没頭するように強いれば、そのベンチャーが持つある種の文化――新技術を生む土壌――を腐れせかねないのだが。

宮嵜清志(株式会社テクノアソシエーツ 取締役副社長)

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