コラム > 2016年7月

「破格な無線通信から見たIoTの世界動向」

(2016年7月29日)

「2020年にIoTが普及する、200億台のモノがつながる」――。こうした話は良く聞かれるが、「2020年に世界の通信市場が150兆円に達する」というような話は、あまりされていない。

現在、LPWA(Low Power Wide Area)と呼ばれるIoT専用の通信方式の開発が欧米で進んでいる。

この技術の素晴らしいところは、非常に安価で省電力でありながら、長距離を送信できる理想的な通信方式である点である。

具体的には、単3電池2本で10年以上使用できる。年間の通信料金がわずか1$から(モデムチップ価格も1.5$)。距離も数kmの送信が可能である。

実際、これ以外で、無線を使うIoTのサービスを実現させようとすると、無線LANやZigBeeか携帯通信の2つに頼ることになるが、運用面で現実的ではない。前者は距離がせいぜい数10m、携帯通信は高価で電源供給が必要となる。

例えば、畑やビニールハウスのセンサーデータを活用するために、送信距離が数10mでは短すぎるし、携帯の通信料金では高すぎて誰も使えない。これが、数km先の自宅まで、10年に1度電池交換し、年間100円程度の通信コストであれば、誰でも使えるようになる。

IoTを使いたいユーザー企業の選択肢

いま、欧州と米国でこの通信方式を誰が握るのか、いろんな業界を巻き込みながら、新興ベンチャー仏SIGFOX社、LoRa陣営、通信の業界標準NB-IoTの3つの陣営に分かれて競争している真っ最中である。

大きな対立軸で見ると2つに分かれており、「新興通信ベンチャー VS 大手通信会社」といった構図である。

問題は、先行するSIGFOX社、LoRa陣営と少なくとも2〜3年の準備が必要な通信の業界標準のどちらを選ぶかである。日系企業を含め、採用するユーザーや通信事業者は、どちらを選ぶべきか岐路に立っている。

SIGFOX社は既に仏・スペイン全土、米国の10都市で非常に安価な通信基地局を武器に、格安のサービスで市場を急拡大させている。同じエリアをカバーするのに1/10の投資規模で済むことが背景にある。海外大手通信事業者の中には業界標準から抜け駆けして新興ベンチャーと組み、独自にLPWAを展開する企業も続々と出現している。

つまり、IoTを使いたいユーザー企業の選択肢は、今日から使える格安な通信サービスを使い、市場を席巻し、先行者利益を得るべきか2〜3年ほど待って、かなりのコスト高な業界標準のシステムを待つべきかである。

通信機器や採用する通信事業者も同様に、先行して機器販売や通信サービスを始めるか、しばらく待って業界標準を進めるか、果たしてその時に市場は残っているのか、業界標準を使って競争力を出せるのか、各社悩ましいところである。

これは単に、通信事業だけの話ではなく、IoTを先行して活用したいさまざまな産業の業界関係者にも関係する話である。日本では周波数が異なる問題があったが、許可申請なしで使用できる920MHZ帯のシステムを開発している日系ベンチャーがいくつか出てきている。

IoTをめぐる無線通信方式の結末は、実際に通信を使ってIoTサービスを行うユーザー企業の先行事業の成否によって判断されるのであろう。

当社では今後もこれらの動向を継続して注視していくつもりである。

木村勲(株式会社テクノアソシエーツ マネージャー)

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